※アニナナ円盤5巻インナージャケットネタ
「ちょっ、と……痕は付けないでください」
太ももにキスを繰り返していたオレの肩を一織が押した。
テーブルランプだけが灯る部屋の中、オレのベッドでとろけ始めていたはずの一織からの抗議。
「なんで?」
「アイドルにキスマークが付いていたら大問題でしょう」
ぐい、と今度は頭を押されて引き離される。一織も身体を起こしたから、二人して正座して向かい合うことになる。
「分かってるけど、別に太ももなら見えないだろ?」
一織の衣装は基本的に露出が少ない。普段着でハーフパンツも着ないから太ももが見えることはそうそうないと思うのに。
「水着の仕事が来るかもしれないでしょう」
「えー、水着でも見えないよ」
丈の長い水着なら太ももの上の方までは見えないはず。そりゃあブーメランタイプとか履くなら見えちゃうだろうけど、人前で着替えることすら恥ずかしがる一織がそれを履く確率は限りなく0%だ。
「見えるときもあるんです」
「むぅ」
「かわ……っだ、だめなものはだめです」
「じゃあ甘噛み!キスマーク付かなければいいんだろ!」
向かい合って正座していた一織をぎゅうっと抱き締めてその首筋をかぷかぷと甘噛みする。
「んん、七瀬さ……! くすぐった……っ!」
◇◇◇
「七瀬さん」
今日はオレがホットミルクを作って一織の部屋に持って行くと、一織がカーペットの上に雑誌を並べて待ち構えていた。
よくよく見ると2年前の雑誌で、『期待の新ユニット、アイドリッシュセブンデビュー!』と大きく見開きでオレ達の特集ページが組まれているものだった。
「昨日の話ですが」
なんのことだろう。オレがはてなマークを飛ばしていると、察したように一織は続けた。
「痕を付けないでという話です」
あ、その話かあ。昨夜たっぷり甘噛みしてあげたら、全身くったりとした様子だったから忘れてしまったと思っていたけど、パーフェクトな一織はしっかり覚えていたらしい。
「デビュー前に沖縄ロケした時のものです」
「NATSU☆しようぜ!の写真?」
「ええ。曲は使えなくなりましたが、写真はプロモーションに使いましたので」
「懐かしいなー!」
見開きで大きく掲載されていたのは沖縄の澄んだ浅瀬に7人で浸かりながら撮った一枚。次のページを捲ると、ビーチバレーをした時の写真や沖縄料理を食べた時の写真も載っていた。
デビューして、2年。初めて沖縄ロケに行ったのはついこの間のことのようにも思うし、ずっと昔の話のようにも思える。不思議な感じ。
「見て欲しいのは最初のページです」
更に次のページを見ようとしたら特集の最初のページに戻されてしまった。一織がトントンと指したのは7人で写っている見開きの写真の中の一織。
「ここまで見える写真が使われる場合があるんです。だから痕付けないでもらえますか?」
NATSU☆しようぜ!のMV衣装だったカジュアル水着を着ている写真の一織。片足を立てて海辺に座っている。
一織が指差しているのはこの立てた片足のところで、ゆったりめの水着の裾から、水着の中がチラリと見える。ああ、確かにこれじゃ太もも見えちゃうなあ……なんて思ったけど、よくよく見たら太ももどころかおしりの肉まで見えていて。
「えっ、一織おしり見えてるじゃん!」
「その言い方は語弊があります!」
丸出ししてるみたいじゃないですか……と一織は手で顔を覆ってうなだれる。
「とにかく、衣装やアングルによっては見える場所なので痕を付けないでください。絶対に」
「分かった、水着の撮影の時期近くなったらキスマーク付けない!」
「できれば年中やめて欲しいんですけど。衣装によっては見えるところもあるので」
えー、水着は確かに露出が多いけど一織の衣装って露出少ないじゃん。長袖多いし。オレのモンジェネ衣装みたいに腹筋が全部見えるような衣装だってない。
だからおへそとか……あ、フレフレ青春讃歌の衣装はへそ出しと言ったらいいのか分からないけど、かなり丈が短くて、バンザイするとおへそが完全に見えていた。
じゃあ、肩とか? 半袖なら見えなくない? ……そういえば、1stアルバムの特典用にとしてユニットごとに撮り下ろした時の衣装は肩出しだった。あっ、あれもがっつりへそ出しだ!
……ジャケットとシャツみたいなかっちりとした服が多いと思っていたけど。
「一織の衣装って露出多い……?」
「…………? 七瀬さんと同じかそれ以下だと思いますけど」
シンメの衣装が多いんですからほぼ同じ衣装でしょう?と一織はいぶかしげに首を傾げる。
「……っていうか、一織はおしり出てたのにOK出したの?」
「だからその言い方は…………まあ、最初チェックした時に気づきましたけど、別に見苦しくはないと思ったので。プロのカメラマンがこれでいこうと言ったのですし、マネージャーもNG出しませんでしたし。現に七瀬さんも言われないと気付かなかったでしょう?」
「それはそうだけど……オレしか見れないところだと思ってたから……」
「ヌード撮ったら全部見えますよ」
「えっ、一織脱ぐの!?」
十さんや八乙女さんみたいなセクシーなグラビアを撮影する一織を思い浮かべて、すぐにぶんぶんと頭を振って打ち消す。
「たとえばの話ですよ、真に受けないでください」
「……そういうグラビアの仕事来たら、一織は受けるの?」
「案件次第でしょうね。やる価値がある仕事なら引き受けます」
もう片付けますよ、と雑誌を閉じようとした一織を「ちょっと待って!」と遮る。
さっき見れなかった続きのページが見たい。続きを捲るとデビューインタビューの後に沖縄でのスナップ写真が載っていた。7人でシーサー作ったり、ビーチバレーしたり。オレは審判だったけど「勝手にルール変えないで下さい!」とか散々一織にお小言言われたなあ。
「懐かしいな。この頃はまだ一織とけんかばっかしてた」
「大して今も変わってませんけどね」
「一織が素直じゃないからだろ」
「七瀬さんがそそっかしい上に無茶振り大魔人からですよ」
ふと目が合って、二人してふふっと吹き出してしまうこうやって笑い合えるだけ一織と一緒に過ごしてきたんだなあってなんだか胸がいっぱいになって。
「一織、これからもよろしくな」
「なんですか、かしこまって」
ほら、つんつんしてるような言葉だけど、声色と表情は全然尖ってない。
見つめ合ったまま、吸い寄せられるように一織の顔に近づくと、唇同士が触れ合う。ちゅ、ちゅ、と角度を変えても受け入れてくれるから頬にも、耳の後ろにも吸い付いた。見えるとこだと一織がうるさいからできるだけ見えないところ。耳の付け根のところに。
「耳の裏なら見えないだろ?」
「あなた今までの話理解してました……!?」